第2章 はじまり
(だれか、たすけて...)
暗い森の中をやみくもに走る少女。前を見て走っていなかったせいかもしれない。
「おい、お前」
「ぇ...?」
声をかけられ、何か暖かいものに包まれた。と同時に視界が反転した。
「っ、いってぇ~」
上から聞こえてきた若い男の声。おそるおそる顔をあげると、そこには朱色の小袖を着た青年が。
「お前、ちゃんと前見て走れよ」
「...っ」
青年と目が合った瞬間、硬直する少女。
「...ぃや!」
「あ、おい!暴れんじゃねぇ!下見ろ下!」
見知らぬ青年の腕から抜け出そうともがく少女に、青年は焦り、下を見るよう促した。
「...っ?!」
少女達がいたのは崖っぷちだったのだ。
「悪かったな、驚かせて」
青年が謝った瞬間だった。
「ん~?幸、早速可愛らしい女の子を捕まえたな」
声をかけてきたのは大太刀を持つ大柄な男性。
「勘弁してくださいよ信玄様、こいつ崖に飛び込もうとしてたんですから。後俺、流石に幼女趣味なんかねーですよ」
幸と呼ばれた青年は少女を抱き抱えたまま起き上がると、信玄と呼ばれた男性に詰め寄った。
「本能寺に火の手が上がったって夜にこんな小さな女の子が一人歩きとは...もののけの類いかな?にしては随分と可愛らしいな...あり?本当にもののけか?」
「...っ」
「あ、だから暴れんなって!」
幸に抱き抱えられた少女の顔を覗き込もうとした信玄だったが、少女はまた怯えの色を顔に浮かべ、またしても幸の腕から抜け出そうともがいた。
「良くもまぁそのような軽薄な言葉が出てくるものだな信玄。しかも幼子に対してまでとは」
「謙信様、信玄様、先程の本能寺の火事は消しとめられたそうです。後その子、怯えてますよ」
「!」
暗闇から現れたのはオッドアイの男性と眼鏡をかけた青年。その青年を顔を見るや否や、少女は幸の腕から抜け出し、眼鏡の青年に抱きついた。
「君は...?!」
「佐助、ソイツ知り合いか?」
「まぁ、そんな感じです」
言葉を濁す佐助。
「すみません、先に戻ってください。直ぐに追い付くんで」
そう言うが早いか、佐助は少女を抱き抱え、その場から姿を消した。
「何だったんだ一体...?」
「佐助の奴、あんな歳の離れた妹いたのか...?」
「...以前奴が言っていた『探し物』であろうな」
「「あぁ...」」