第2章 はじまり
「あ、の...!」
一斉に自分の方に向く4対の目に怯えながらも少女は続けた。
「そのひと、なんもして、ない...!」
「何故そう言い切れる?」
秀吉の威圧感に圧倒されながらも、少女は真っ直ぐ秀吉と光秀を見つめた。
「だって、しょのひと、こげのにおい、ない!」
「確かに...本能寺にいたのなら、多少はきな臭くなるものか...」
「じゃあお前は何で本能寺に居たんだ」
秀吉の標的が今度は少女に向かった。
「...っ」
「子どもが何故、こんな時刻にこんな場所にいた?お前は一体何者だ?」
少女に手を伸ばす秀吉。
「待て、秀吉」
信長が声をかけるより早く、少女は三成の腕から抜け出し、その細い右腕を真上に上げ、
「っ...ゆきなだれ!」
「は...?!」
勢いよく振り下ろした。すると...
どっしゃあぁぁぁぁ!
大量の雪が秀吉の真上から落下した。
「ボフッ?!」
「秀吉様?!」
「あ、こら待て!」
秀吉が雪に埋もれた隙を見て、少女は逃げ出した。
「ぶっ、くくく...」
「光秀、笑うんじゃねぇ!」
「秀吉様、大丈夫ですか?」
「秀吉、貴様は彼奴を追え。光秀、三成、貴様等は俺と来い」
「「「はっ」」」
(もう、ゃだ...)
信長達のいる天幕から逃げ出し、森の中を逃げ惑う少女。
「あれ...?ここ、どこ...?」
「こんな時刻にどうした、子狐のお嬢ちゃん」
「ふぇっ...?!」
振り返ると、そこにいたのは顔に傷のある、錫杖を持った男性。
「私は顕如と申す旅の僧だ。困ったことがあるなら相談にのろう、子狐のお嬢ちゃん」
「...っ!」
ぶんぶんと首を横に振り、逃げるようにその場を後にする少女。
「ん...?本当に狐なのか、あの子は...?」
少女の後ろ姿に疑問符を浮かべる顕如であった。