第1章 非合理的な選択肢
無個性に個性を植え付けられる被験体がいる、という話を聞いたのはかなり前のような気がした。
もうそんな実験をやっている施設なんて限られているだろう。
そして、闇組織で蔓延る無個性の人身売買。
オークション形式のそれは、なんと堂々と国会議事堂の真下で行われているのである。
あえて、というのもわかる。
そして一部の政治家がそこに加担し、警察側も弱味を握られているのであろう。
要は誰も手出しが敵わないのである。
故にヒーロー達にここの調査をしろという。
そこまではわかる。
なんのメリットもない仕事だ。
果たしてこれをしたところでマスコミの潰しに合い、やがては表にすら顔を出せなくなるのは容易に想像できる。
それなのに、そこに足を踏み入れ、現場を見る。
現場は到って豪華絢爛、まるでいつか海に沈んだ巨大客船のようだ。
(勝手なイメージだが)
やれやれと憎たらしくぶら下がるシャンデリアを睨んだ。
現場では仮面の着用が義務づけられており、身分証明などもほとんどしなくて良い。
招待状が唯一必要だったが、難なく偽造されたもので通った。
警備はガバガバらしい。
それほどまでに、奴等は、自信がある、ということの暗示でもある。
(無駄な動きはするなってことか)