第43章 【番外編】スターダスト
最後に二人がけのゴンドラに乗った。
園内の水辺を一周するようだ。
案内係さんに、
「ご兄妹ですか?」
と聞かれる。
いつもの癖で頷こうとしたところで、先生が、
「どこからどうみてもカップルだろ」
と答えた。
意外過ぎる発言に吃驚しすぎて乗り損ねる。
先生は先に乗ってから慎重に手を引いてくれた。
「失礼致しました、いってらっしゃい」
笑顔で見送られ、複雑な心境と顔のまま、ゆっくりと水辺を滑る。
イルミネーションで彩られた水がきらきらと光っていて、星屑の上を渡っているみたいだった。
私達が1日かけて回ったところを、15分くらいで回るらしい。
私が二回見た、走馬灯とやらに似ている、なんて不謹慎なことを思う。
「先生、1日、すごく楽しかったです…」
「先生は禁止だろ」
「うっ!だって、今誰もいないから……」
「誰もいなくても」
「意地悪です…」
「なんとでも言え」
先生は、急に私の手を掴むと、真剣な顔をする。
「そうでもしないと、俺は一生お前の先生だろ?」
「あ………」
それって、どういう意味ですか?
って、ちゃんと聞きたかったのに。
頭が真っ白になった。
先生はそのまま私の顔を見たまま、手探りで私の手を探す。
手袋を外そうとすると、あかぎれがぴりっと痛む。
「っ…」
手を重ねられるのは嬉しいけど、今の荒れた手が嫌で、急いで引こうとした。
「あ……その、手が……」
「ああ、忘れてた。
その為に持ってきたんだ」
先生はコートのポケットから可愛らしいパッケージを出すと、そのまま封を開ける。
「あげる予定だったんだが、まあいいか」
「あげる?」
「ハンドクリーム」
「はんどくりーむ……」
そんな単語が出てくるとは思わず、復唱してしまう。
それを自分の手に取ると、馴染ませるように私の指に塗る。
くすぐったいのと恥ずかしいのと、先生が真剣なのが申し訳なくなってくる。
ゆっくりと体温で白い筋が透明になって肌に染み込んでいく。
「甘い香り……ありがとうございます…。
大切に使いますね……」
指先や爪まで綺麗に触れられ、ふとこの前の夜のことを思い出す。
「…っ!!」
指先にこそばゆい感覚が甦り、変な声が出そうになった。
「何を思い出したんだ?」
「な!なんでもありません!!」
先生は、くっと喉で笑うと、やっと手を離してくれた。
手が、まだ熱かった。