第33章 【番外編】恋人ごっこ
「同じクラスの子が、都内の漫画展に行ってきたらしいんです。
それが、楽しそうだったから…、気になって…」
「まだまだ遠出は危ないぞ」
「……そうですよね、わかってます…」
試しに、ちょっと気になってることの話をしてみたものの、否定から入られる。
言いたいことが一つも言えないまま会話が終わってしまい、ちょっとだけ、泣きそうになる。
違うのに、そうじゃないのに。
勿論、行けたらな、なんて淡い期待でその話を振ったわけだけど。
そうなんだけど。
フィルターのせいで私にだけ真っ黒に見えるモニターは、私の心のようだと思った。
眠ってしまったらしい。
そのままの体勢で寝かされていて、先生は壁に凭れて寝息を立てている。
(また迷惑をかけてしまった……)
落ち込みながらゆっくりと身体を離す。
寝ているならば、素直に何か言えるだろうか。
座ってても尚埋まらないその身長差が、少しだけ悔しい。
見上げながら、一言二言、呟いた。
「先生、次の連休、ちょっとだけどこか行きたいんです…。
忙しいし、危ないし…、わかってるんです。
ちょっとだけ、学校じゃないどこかで、一緒にいたかったんです……」
はあ、と泣きそうな息が漏れる。
「我が儘言って、ごめんなさい。
おやすみなさい……」
結局、後悔した。
早く大人になれない自分がもどかしい。
先生にブランケットをかけようと持とうとした瞬間、一気に視界が天井になる。