第31章 【轟編】聖域の証明
「……」
には見えないが、鳩が豆鉄砲を喰らうような、凄く間抜けな顔をしてしまった。
「せ、先生には、卒業したらって、言われたんだけど、本当かな?
やっぱり、違うヒトがいて、私とは遊びだからそういうこと言ってるのかな?」
「……いや、それは…」
脅していたはずの相手がぽろぽろと泣き始め、スカーフの意味がすっかりなくなる。
が、危機感はこの前より然程ない。
もしかして、の気分に左右されるのだろうか。
「それはない、安心していい…!」
「ほ、ほんと?」
ぐすぐすと手のひらで涙を拭いながら、彼女は身体を起こす。
「ほら、私、色々あって、もう自分の家には帰れないし、先生しかいないから…っ」
「あ、ああ…」
「でも、そうだよね…2年で何あるかわかんないよね……。
先生に甘えて生きてくわけにはいかないよね…っ。
私も真面目に今からインターンとかしようかな……?」
「お、おう…」
「あ…でも、身分証明も今出来ないし、登録も厳しいかな……?
進路指導の先生に聞いてみようかな…」
「…、その……」
脅して一瞬でもソイツの甘い空気に触れたいと、そんなことすら馬鹿馬鹿しくなってくる。
「悪かった……。
先生は、お前のこと、凄い大事にしてる……」
見たままの感想を言い、はあ、とため息が勝手に出た。
「だ、大事…?」
恥ずかしそうに聞き返し、じっと見つめてくる。
「ああ」
上手く説明は出来ないが、それだけは確かで、見たまま感じたまま、そう思うということを伝えた。
首を傾げ、納得はしていなかったようだが、彼女なりに結論が出たようだ。
「ありがと…」
と微笑む彼女は、艶やかだった。