第4章 興味本位
「行ってくる」
こんな風に、室内に挨拶したのは何年ぶりだろうか。
壁から少しだけ顔を見せ、その小柄は小さく、
「行ってらっしゃい」
と呟いた。
今後のことを考える負担が少し減った分、お互いにどこかしらの余裕が出来た……気がする。
それはそれで、考えなくてはならないことも多少はあるが。
前進出来た1歩は大きかった。
恐らく生徒と同じくらいであろう彼女もまた、1人の人間であり、1人の女だ。
帰宅するとこちらには一切気付いてない。
『ご覧下さい、こちらが新商品の…』
テレビにかじりつくように必死に見ている。
写っていたのは、世界を騒がせているパティシエだかなんだか。
『これは、あっまーい!』
「甘い…っ」
ぼそっと迫真の顔で鸚鵡返しをしている。
(ちょっと怖い)
『クリームがとろとろで』
「とっ…!」
『ふわふわですねー!』
「ふっ、ふわっ!」
「帰ったぞ」
「!!!!?」
声を掛けると驚きのあまりに1メートルくらい床から飛び上がりそうなほどだった。
いつも1人でぼそぼそ言いながらテレビを見ているのかとを思うと、なんだか不憫になってきた。
「……食いたいか?」
「そ、そ、そんな……」
首は横に振っているが、しっかり唇は潤っていた。
「遠慮すんな。明日は休日だ。
たまには外に出たほうが健康的だ」
「……っ!」
は嬉しそうに目を輝かせ、ゆっくり大きく頷いた。
飼い主が餌を見せた猫のようで、どことなく可愛さを感じる。
(これは、なかなか…)