第1章 はじまり
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すごく大きな音が聞こえたので
また、海面へと向かおうとしていたら
王子様が溺れていた
『足に傷が…助けなきゃ!』
泳げないのか、意識が朦朧としているのか
分からないけれど…このままじゃダメだ!
ずっと前に、お姉様達が人間について
話していた事を思い出した。
「人間は私たち人魚の様に泳げないの」
「海の中では呼吸も出来ないらしいわよ?」
「私たちは足に傷を負ってはいけないけど
人間は左胸の“心”というのが動かなくなると
死ぬらしいのよ!」
だとしたら、この人は死んじゃうの…!?
慌てて王子様を助けに急いで向かう
肩を掴んで、生きているかを確認する為
顔を覗き込むと王子様と目が合った
綺麗な目……
人間が息のできる海面へと向かう
この近くに浜辺がある場所を知っていた
ので、そこに王子様を運ぶことにした。
気付けば日の出の時間になっていた
浜辺に運び、王子様をそっと寝かせる
端正な顔立ちに白磁のように綺麗な肌
生まれて初めて間近で見る人間の王子様
に興味が湧いた
もちろん質問したい事は沢山ある。
貴方はどんな声をしているの?
何の食べ物が好き?
これは何に使う道具なの?
陸のどこに住んでいるの?
_______貴方のお名前は?
『もう一度、あの瞳を見せて』
目が合った瞬間に、凄くドキドキしたの
人魚の王子様は、私を好きだと言うけれど
一度もドキドキした事は無いわ。
これも生まれて初めて……
『死なないで……お願い。』
人魚姫の流した綺麗な涙は、頬から
零れ落ちると一つの真珠に変わった
『癒しの歌を歌ってあげる。』
そう言うと人魚姫は人間の王子様の頬に
手を添えると、歌い始めた。
さっきまで海鳥たちの鳴き声が
していたのに、人魚姫が歌い出すと
海鳥も波の音も静かになった
「……ん………?」
『!』
やっと目を開けてくれた!
王子様が目を擦り、こちらを見たが
遠くで「ヒョン!」と人間の声がする
逃げないと!
急いで大きな岩陰へと身を隠した