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ゆるやかな速度で

第9章 7.合宿01


「その…僕、いいんですか?」
「ん?野宮はコートで実践練習したないってことか?」
「いえ!そんな…そんなことないです!ありがとうございます!」

野宮くんは勢いよくお辞儀をする。
その姿を見て白石くんは苦笑しながら『そんなかしこまる程でもないやろ』と言う。
その言葉を聞いて、ガバっと勢いよく野宮くんは顔をあげる。
顔をあげた野宮くんの瞳はキラキラと輝いていて、私は先程まで落ち込んでいたのが嘘のように瞳に活力が戻ってきて良かったと思った。

「その、僕、ここのやつ持って先にコート戻ってますね!」

彼の瞳をみていると、余程野宮くんは嬉しかったのか元気よくそう告げると、使用可能なボールの入った籠を勢いよく両手に持って走っていってしまった。

「行ってしもうた…。なんや、みんな金ちゃんや謙也みたくなってきとらんか?」
「……ふふ」

取り残されてしまった私と白石くんはその場で呆気にとられて彼の行動をみていた。
けれど、その場の空気を先に破ったのは、白石くんのポツリと呟いた言葉で、私は堪えきれずに笑ってしまった。
そんな私を見て白石くんは呆れるでも怒るでもなく、ふわっと優しく微笑んでくれる。

「じゃ、俺らも行こか…って荷物は今、野宮が持っていってしもうたんやっけ?」

白石くんのその言葉で私は辺りを見渡すと確かに、ここに置いてあったボールの籠は全部持っていかれてしまっていた。
よくよく考えると、先程大きな籠を2個とはいえ両手にそれぞれ持って走っていってしまったと考えると、野宮くんもたまたま自信を持てる機会がなかっただけで、うちに秘めているポテンシャルは高いのではないだろうか?

「確かに野宮くんが持って行っちゃったみたい」
「さよか。じゃあ、俺らもコートに行こか」

白石くんのその言葉を合図に私達はこの場を後にする。
コートに行くと、白石くんの予想通りに丁度金太郎くんがコートに入る所だったようで私の方へと駆けてきて嬉しそうにこれから試合形式の練習をする事を教えてくれた。
私は嬉しそうに話す金太郎くんの言葉を聞きながら、何となく白石くんを視界の隅で姿を追う。
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