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ゆるやかな速度で

第9章 7.合宿01


「俺の息抜きみたいなもんやから、嫌なら断ってくれてもええし」

白石くんはあくまでも自分がやりたいからと言うスタイルを変えようとはしなかった。
私は野宮くんを見てから白石くんの申し出を受けることにした。

「あの…その、白石くんの手間にならないならお願いしたいです」
「ありがとうな」

そう言って白石くんは私の頭を軽くポンポンと励ますかのように叩く。
前にも同じ事をされてしまったけれど意外と白石くんは、親しくなるとスキンシップが激しい人なのだろうか?
部活での彼の行動を思い返してみると確かに誰かのフォームが綺麗だったり、綺麗に相手コートへボールが決まった時は近くにいる人の肩をポンッと叩いているのを見たことがある。
きっと仲間内には気さくな人なのだろうなと思ったのだった――。

それからは早かった。
元々、私と野宮くんでも後少しという所だったけれど、白石くんの手際の良さにものの数分で作業が完了してしまった。
私と野宮くんは驚いて顔を見合わせてしまう程だった。
やっぱり白石くんはこういった作業の手際まで良いのかと感服してしまう。

「よし、こんなもんやろ」
「白石くん凄いね」
「なんや、褒められると嬉しくなるな」

少し照れくさそうに笑う白石くんに思わず見惚れてしまった。
顔の整った人のこういった表情はやはり何度見ても慣れないものだと思ってしまう。
ドキドキと鳴る心臓の鼓動を感じながら、私は顔が変な風に赤くなってしまってないか心配することに必死になるしかなかった。

「ここの作業が一段落ついたし、【名前】はコートでスコア付けてくれへん?きっと今頃はコートで金ちゃんが試合する頃やと思うし」

私が1人で内心奮闘していると、白石くんが次の作業を振ってくれた。
私は白石くんの言葉に静かに頷く。

「それと野宮は、金ちゃんと同じでちゃーんと最後まで準備体操を全部こなしたらコートで実践の練習な?」
「え…僕がですか?」
「野宮って名字の奴、他におらんやろ」

野宮くんの言葉にクスクス笑いながら白石くんは頷く。
その姿を見て、驚いた表情のままだった野宮くんの表情がみるみるうちに嬉しそうな表情へと変化していくのが私でも分かった。
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