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ゆるやかな速度で

第9章 7.合宿01


「でも遠山、テニスしたいってさっき白石部長にごねてただろ?試合形式の練習するのかと思って」
「あー!それなぁ…白石が駄目言うてなぁ…。しかも毒手まで出してきたでワイ…一目散に逃げて来てん…」

しょんぼりと告げる金太郎くんの言葉に私と野宮くんが顔を見合わせる。
白石くんが金太郎くんに練習メニューの変更を許さなかったのは、割とよく耳にする話題なのであまり気にはならなかったけれど…今、金太郎くんの口からなんて言葉が出ただろうか?
『毒手』とは…一体…?

「あの…金太郎くん」
「ん?なんや、【名前】?」
「毒手って…何かな?」
「えー!!【名前】、知らんの!?」

私の言葉に金太郎くんは驚いた声をあげる。

「白石の毒手はやばいで!」

そして、白石くんの左手の包帯について教えてくれた。
彼の話をまとめると、多分あの包帯の下は普通の手ではなく、毒手と呼ばれる触れた相手に毒を与えてしまうとの事だった。
その言葉を聞いてから白石くんの左手に巻かれている包帯の事を私は思い出す。
流石に毒手ではないと思うけれど…そう言えば彼の包帯の事を聞いたことは無かったな…と思った。

「だから【名前】も気ぃ付けや!」
「…うん」

私の考えとはよそに金太郎くんが真剣な表情で私を心配していた。
私は毒手は嘘なのではないのかな?と思い、金太郎くんを安心させようと思ったが、それを踏みとどまる。
よく考えて、白石くん達が金太郎くんにそんな嘘をついたままにするのだろうか…?
何か意図があって金太郎くんに誤解をさせたままなのでは……?と私が考えていると、倉庫の入り口に人影が見えた。

「あ、金ちゃん。こんな所におったんか」
「げぇ!白石」

人影は白石くんだったようで彼は私達の方へと歩いてきた。
でもそんな白石くんを見て、金太郎くんが私の目の前で両手を広げる。
咄嗟の事で私も白石くんも野宮くんも驚いて呆気に取られてしまった。

「白石…また毒手出すんやろ…。【名前】達には毒手させへんで」
「金太郎くん…」

私は金太郎くんの優しさに胸が暖かくなっていくのを感じた。
白石くんは全くそんな気はなかったと思うから金太郎くんの勘違いだとは思うけれどこうして庇ってくれた事に彼を頼もしく思ってしまった。
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