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ゆるやかな速度で

第9章 7.合宿01


「なんか…すみません急に。僕、テニス始めたばかりだし…同学年の遠山も同じぐらいだって聞いたのに…なんか自信なくしたというか…。それで練習抜けて来ちゃって…本当はよくないんですけど」

ポツリポツリと彼は心情を吐露していく。
その姿を横目で見て、私は彼に自分を重ねてしまった。

本当は頑張りたいのに空回ってしまってばかりで、うまくいかない自身への焦り、苛立ち…。
失礼だとは思っても私も野宮くんを自身と重ねてしまった。
だからなのか…私は自分自身には言えないけれど、綾子ちゃん達からもらった優しさを彼に渡したいと思った。

「その…私なんかが言えた立場じゃないですけど…。まだ数ヶ月も経ってないですよね?」

私のその問いかけに野宮くんはコクリと頷いてくれた。
その頷きを見てから私はゆっくりと話し始める。

「大器晩成型なのかもしれないし…もしかしたら違うかもしれない。でも…努力することだけは無駄じゃないと思うんです…。私も…努力しようって思えたから……って、なんか偉いそうですね。ごめんなさい」
「いえ…僕の方こそなんかすみません。先輩の手伝いに来たはずなのに逆に励まされちゃって」

野宮くんが微笑んでくれて私はホッとした。
彼も私見たくもがいてもがいてもがいて…でも頑張っている。
きっと今直ぐには成果は出なくても、この努力は無駄にならないと私も信じたいと思った。
私は白石くんのおかげで頑張ろうと思えたから……彼も何かがきっかけで頑張れれば良いなと私は思ったのだった。

「あ!野宮おった!」

あれから私達は少しだけ口を動かしつつも手はきちんとボールの空気の確認をしながら作業をしていると、倉庫の入り口の所に聞き慣れた声とシルエットが見えた。
入り口にいた彼は普通に私達の方へと歩いてくると、逆光だった太陽の光もなくなっていき、その人物がちゃんと見えるようになった。
勿論、そこには思っていた通りの人物――金太郎くんがいた。

「なんや。【名前】の手伝いしてたん?」
「あ、あぁ」
「えー!それならワイも誘ってやー!」

野宮くんの返事を聞いて、少し拗ねた声で金太郎くんが告げる。
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