第2章 1.きっかけ
「遥斗はその…テニスしてみたい?」
「え、何?急にどないしたん?」
私の言葉に遥斗は驚いた様で、食器を見ていた顔を私の方へと向けた。
遥斗の顔は驚いたままで、大きな瞳が更に大きく見開かれ、私を見つめていた。
「あのね…」
私は今日あった出来事を順を追って全部説明する。
遥斗はそれを黙って聞いてくれていた。
いつもは賑やかで天真爛漫な弟が私の話はちゃんと真剣に聞いてくれる所に彼の私に対する優しさを感じていた。
そして最後まで聞き終わると遥斗はいつもとは違う真剣な眼差しのまま私に尋ねる。
「姉ちゃんは…ほんまにええの?」
遥斗の大きな瞳が私をジッと見つめる。
遥斗は何処まで私の事情を察しているのだろうか。
今まで直接あの事を話した事はない。
でも社交的で察しの良い弟だから、きっと気付いているのかもしれない。
それでもあえて私に気を遣って何も言わないのだろう。
『ほんまにええの?』という言葉でその事に気付いてしまい、私は余計な気を遣わせてしまっていた事実にようやく気付いた。
姉失格だなと気付かれないように自嘲する。
今までも、もしかしたら遥斗は私を気遣って自然と友人の話も控えてたのかもしれない。
でも…そんな気を遣える遥斗でもきっと友達から聞いたテニスの話は私に話してしまう程に気になるものだったのだろう。
だから今も私の顔色をうかがう様な視線を投げかけているのだと思った。
今まで私のせいで我慢させてしまっていたなんて本当に申し訳なく思った。
それに…今日図書室で少し話しただけだけど、白石くんは…なんだか話していて緊張はしても嫌悪感はなかった。
もしかしたら私はもう過去の事も大丈夫なのではないだろうか?なんて少しだけ楽天的に考えてしまう。
そんな風に思ったのなんて初めてで自身の心境の変化に驚いてしまう。
そして私は少しだけ息を吸い込んで遥斗へ返答する。