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ゆるやかな速度で

第8章 6.変化


「で、いい話と悪い話しどっちから聞きたい?」
「えー、悪い話しあるんかい」

渡邊先生の言葉にいつの間にか元に戻ったユウジくんが突っ込みを入れる。
いい話だけなら楽しそうな話題だけれど、悪い話は確かに身構えてしまうなと私は1人ひっそりと先生の次の言葉に身構える。
するとそれを偶然なのか、それとも分かっていたのかは私には分からなかったけれど、私は先生に指名されてしまう。

「んー、そんじゃ【名字】」
「え!?」

急に話題を振られた私は驚いてしまい何を話していいか分からなくなってしまう。
私は数秒の間、黙ってから意を決して先生に返事を返す。
私が黙っている間、誰も私を急かすこともせずにただ黙って見守ってくれた行為に私は内心感謝をした。

「えっと…悪い話しからでお願いします」
「ほー、【名字】は悪い方から聞きたがる派…と」
「オサムちゃん、勿体ぶってないでさっさと言ってや」

渡邊先生が私の回答を聞いてメモを取る仕草をする。
その仕草を見て勿体ぶっていると感じた忍足くんが突っ込みを入れた。
忍足くんの性格からして焦らされたりするのが好きではないのかな…と私は思った。
それなのに私が先程戸惑ってしまっている間に何も言わないでくれた忍足くんの優しさに再度感謝する。

「GWなんやけど、テニスコート使えへんわ」
「はぁ!?」
「なんやて!?」
「…え?」

忍足くんの言葉を受けて渡邊先生がサラッと衝撃的な言葉を放つ。
私は驚いてしまい皆とワンテンポ遅れて声を上げたが、皆は先生の言葉を聞いて直ぐ悲鳴にも似た声をあげていく。
GWにテニスコートが使えないというのは全国大会制覇を目指しているテニス部に取って痛手になるという事は流石の私でも直ぐにわかる。
練習が出来ないなんて事になれば、とんでもないのではないだろうか?

「練習どないすんねん!」

私が考え込んでいると、忍足くんが再度渡邊先生に突っ込みを入れる。
そんな忍足くんの様子を見ながら先生は余裕の表情で、まぁまぁと言いたげな仕草をする。

「まぁまぁ、落ち着き。こっからがいい話や」

先生の言葉に皆が再度黙る。
ほんの数秒の沈黙のはずなのに、先生の無言の時間が長時間の様に感じた。
それ程までに私達は先生の言葉を心待ちにしていた。
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