• テキストサイズ

ゆるやかな速度で

第8章 6.変化


私がテニスボールの入った籠を足元へと一旦置くと金太郎くんが勢いよく私に飛びつく。
私と金太郎くんのこの挨拶行為が私達の日課になりつつあった。
子供時から愛情表現が大きな彼だったけれどそれは変わっていない様で懐かしい気持ちになる。
遥斗と同じで彼の事も私は内心勝手に弟の様に思っていたので、こうして姉のように慕ってくれる純粋な気持ちは私とっては嬉しい事であった。
最初は驚いていたテニス部の人達も数日ぐらいで特に気にしない様になってしまった様で彼らの順応力の高さに私は驚かされてしまう。

「あんなぁ、今日は千歳来とるんやって」
「千歳…くん?」
「せや!【名前】、会うた事ないやろ?こっちやで!」

私に抱きついていた腕を緩めてから金太郎くんは私の手を引いて歩き出す。
歩き出しながら私は、千歳くんという名前をゆっくりと記憶から呼び起こしていた。
そう言えば先日小石川くんに部室を案内された際に出たレギュラーの名前だと思い出す。
確かあまり部活に顔を出していないと言われていた人だ。
どんな人なのだろうかと少しの緊張と好奇心に私の心は満たされていた。

きっと前までなら緊張しかなかったはずなのに、私はやっぱり少しずつ進めているのだろうかと嬉しくなってしまう。
そんな事を考えながら、少し歩いた先には背の高い男の子がテニス部の人達に囲まれて立っていた。
金太郎くんが『千歳!』と話しかけると、話しかけられた彼はこちらにゆっくりと振り返った。

「ん?」
「千歳!さっき話してた【名前】や!」
「金ちゃんわざわざ連れてきてくれたと?」
「せや!」

千歳くんに言われて金太郎くんはエッヘンと言いたそうな表情を私の隣でするので私は自然とクスクスと笑ってしまった。
きっと彼に褒められて嬉しくなったのだろうなと察して私も自然と笑顔になる。
/ 166ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp