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ゆるやかな速度で

第7章 5.始動


「気を遣わせてごめんなさい」
「いや、気にせんといて」

少し気まずい空気の中、2人でまた家路を歩く。
何か会話を…と私は内心ぐるぐると考えたが何も面白い話が浮かばない。
こんな時、綾子ちゃんなら面白い話の1つや2つ直ぐに浮かぶのだろうけれど、私には悲しいほどにその類の才能は無かった。
どうしようとパニックになりつつも何か話さなければという気持ちの焦りから何も会話の内容も浮かんでいないのに私は勢いよく白石くんに話しかけた。

「あ、あの!」
「あ!姉ちゃん!白石!」

私が白石くんに話しかけた瞬間に私達の後ろから声が響く。
あまりのタイミングの良さに驚いて私は振り返ると、こちらに駆けてくる遥斗が目に入った。
遥斗の肩にはテニスバッグが背負われていたのでテニススクールの帰りなのだと気付いた。

「今帰り!?」
「あぁ、せやで」

遥斗は白石くんに会えたことが嬉しい様で色々と彼に話しかけていた。
私は遥斗の登場によって私達の気まずい空気を一瞬で変えてくれた事に感謝する。
でも少しだけ残念な気持ちもして、何でそんな気持ちになるのだろうか?と自身の感情がいまいち分からなかった。

横にいる2人を見ると楽しそうに会話をしていた。
私は遥斗が嬉しそうにしているのを見て、こちらまで嬉しくなるのを感じた。
だからこそ先程まで胸に燻ったこの感情はなんだったのだろうか?と考えてみたけれど、それはやはり私には何なのか分かることは無かった。
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