第7章 5.始動
その返答を聞いて私は、相手の事を考えて答えられる白石くんは凄いなと思ってしまう。
だからいつもはどうしても謝罪の言葉から言ってしまうが、私は「ありがとう」と素直にお礼を言った。
私がお礼を言うと白石くんは嬉しそうに頷いてくれた。
そして私の荷持を白石くんの自転車の前カゴに入れから2人で歩き出す。
家の方向が違うはずなのに今日は帰りが遅くなってしまったからと、白石くんはまた私を気遣って一緒に帰宅してくれる。
部活で疲れているはずなのにこういった細やかな気遣いが出来る彼は本当に凄いなと私は感心する。
自転車を押しながら歩く白石くんと、その横を歩く私。
2人で暗くなった帰り道を他愛も無い会話をしながら歩いていく。
会話の内容は授業の話もいくつかしたけれど、やはりテニス部の話ばかりだった。
初めての事ばかりで慣れない事もあって大変だったのでは?と聞いてくれたり、レギュラー陣とは仲も良いらしく、白石くんの視点から語られる彼らの話はどれも面白かった。
皆の事をほぼ知らない私は白石くんから語られる彼らの日常やテニス部での話はどれも新鮮だった。
そんな面白い話を聞いているとその場にグーと盛大にお腹の音が鳴り響く。
どう考えてもそれは白石くんではなく、私のお腹の発した音で、私は慌てて隣にいる白石くんを見る。
聞こえてないと良いけど…と思ったが私の方を驚いた表情で見ていたのでバッチリ聞こえていたようだ。
恥ずかしくて顔が一気に熱くなるのを感じる。
そう言えば今日はお昼の時に金太郎くんにおかずをあげたから、いつもよりお昼の量が少ない事を忘れていた。
初めての事ばかりで緊張していたのか部活中は全然お腹の空きを感じなかったのに、白石くんと話していて緊張が解れてきたのか気が緩んでしまっていたようだった。
「そ、その!…聞こえた……よね?」
「あー…まぁ……せやな」
物凄く気まずそうに白石くんは答えてくれる。
気を遣わせてしまって申し訳なく思った。