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ゆるやかな速度で

第7章 5.始動


私が一連の動作を終えて部室を見渡すといつの間にか白石くん以外の人は帰宅してしまっていた。
もしかして待たせてしまったのだろうかと私が謝罪の言葉を言う前に白石くんが口を開く。

「明日の朝の鍵当番俺なんよ。だから最後も元々俺やったから気にせんでええよ」

そう言って白石くんは笑った。
本当に白石くんの言う通りなのかは私は当番スケジュールを知らないので判別出来なかったが、彼の言葉を信じることにした。
それでも私の行動を早める様に言うことも出来たのに特に気にせず部室で待っていてくれるなんて白石くんの人の良さは何処まで突き抜けているのだろうか…。

「てかそんなに持ち帰るん?」
「前が見えるし大丈夫かな…と思って」

私が謝罪の言葉を告げるようとまた思った瞬間に白石くんからまた先に私に質問を投げかけられてしまう。
だから正直に彼の質問に対して返事をすると白石くんは笑った。
私は何故この会話のやり取りで白石くんが笑ったのか分からなかった。
暫く白石くんが笑うと、「失礼やったよな」と謝罪されて首を左右に振る。
笑われた事を不快に思うような事は無かったが、ただ何故笑われたのか分からなくて困惑してしまう。

「【名前】はもう帰れると思ってええよな?」
「はい。鞄も持ったし、帰れます」

私がそう答えると、白石くんは椅子から立ち上がる。
白石くんと私は一緒に部室の戸締まりを確認してから部室から出た。
そしてファイルを抱えて帰ろうとする私に白石くんは「ちょっとここで待っててな」と言い残して小走りで何処かへと駆けて行った。

少しだけ部室の前で待っていると白石くんが自転車に乗ってその場に現れる。
私は驚いて彼がこちらに来るまで待っていると「【名前】のことやから多分たくさん持って帰りそうな気がしてな」と白石くんは笑った。
どうやら彼は私の行動を先読みしていて、その読みが当たったことで先程笑ってしまったらしい。
そんなに自分の行動が分かりやすかったのかと少し恥ずかしくなった。

「もしかしてわざわざ今日、自転車で通学してくれたの?」
「今朝の部活に荷物あったから自転車にしただけやし気にせんでええよ」

私は自分の気恥ずかしさを誤魔化す様に白石くんに質問する。
それに対して彼はサラッと私が気を遣わない様に返事を返してくれた。
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