第7章 5.始動
そう言えば先程も小春くんの事を気にしていたし、綾子ちゃんもユウジくんは小春くんの事をとても大切に想ってると聞いたので私の言動が気に障ってしまったのかもしれない。
そう思って私はユウジくんに話しかけようとした瞬間に部室に忍足くんの声が響いた。
「あー…そういや千歳は今日こーへんのか?」
「千歳から誰にも連絡来てへんか?」
白石くんが部室にいる人達に質問を投げかけるが誰もが首を横に振るだけだった。
千歳くん…?と私が思っていると白石くんは私が疑問を持っていることに気が付いてくれて説明をしてくれる。
「千歳って言ってな、3年でレギュラーのやつがおんねん。テニスの腕は確かなんやけどな」
そう言って白石くんは苦笑する。
他の人達に視線を向ければみんな苦笑していた。
「サボりっすわ」
そんな中、財前くんだけきっぱりとそう告げた。
彼はハッキリと物事を言う人なのだなと私は思った。
「まぁ、そう見えるかもしれへんな。何ていうか自由なとこがあるんよ。背が高くて飄々とした感じのやつおったらそれ千歳やから」
白石くんの説明に私は頷く。
千歳くんか…。どんな人なのだろうか?と頭の片隅でそう思った。
その話の後からは展開が早かった。
皆は私が部室に来るまでの間に着替え終わっていたので、次々と帰宅していく。
私は皆を見送ってから白石くんと小石川くんに教えてもらった部室の端にある棚へと向かう。
そこには綺麗にファイリングされた資料がしまわれていた。
誰も暫く手にとっていないのか少しだけ埃がついていたので、丁寧にそれらを落としていく。
床に落ちてしまった埃は掃除用具入れから取り出した箒とちりとりで綺麗に片付けた。
そして本棚に並んでいるファイルを眺めてから、流石に全てのファイルを持ち帰るには無理だなと私は断念した。
私の想像より厚みがあったからだった。
白石くんから聞いていた通りのよく出来た先輩だったようで資料が綺麗に順番に並んでいるのを確認して私は1番古いのから順番に棚から出す。
自分で持ち帰れるだけの量を傍にあった机に積み上げる。
流石に帰宅するのに対して前が見えなくなったら危ないなと思ったので両手で前で抱えても顔はそこから出るぐらいの量を調整して残りは棚へとしまった。