第7章 5.始動
「小春はな、俺のもんや!」
「はい」
「だからいくら小春に気に入られようとしても――あたっ!?」
私がユウジくんの台詞を頷きメモを取りながら聞いていると突然彼の言葉が途中で途切れてしまう。
驚いて顔をあげれば小春くんから頭を叩かれて抑えているユウジくんと目があった。
若干涙目になっていて、私は驚いて隣にいる小春くんに視線を動かすと若干憤っている彼と目が合った。
「ユウくんの言う事は気にせんでええよ?」
「え、でも…」
私がどうして良いか分からず2人をキョロキョロと見ていると、私の後ろで誰かが吹き出す声がした。
振り返ると何人かが肩を震わせているのが目に入る。
「うけるわ」
「てか、先輩のアホ会話までメモとるとか…。アホなんっすか…」
「えっと…」
私は困惑してしまいどうしたら良いかと視線を彷徨わせているとまた小春くんと目が合う。
焦る私を察してくれたのか、はぁとため息を付いてから彼は私に救いの手を差し伸べてくれた。
「ユウくんのあれはいつもの事やから、本当に気にせんといて?ちなみにアタシのことは好きに呼んでもらってええから、な?」
「えっと…じゃあ、小春くんと、ユウジくん…で良いかな?綾子ちゃんからよく名前の方で聞いてたから…」
内心勝手に名前で呼んでいたので、直接許可を私は取る。
どうしても綾子ちゃんとの会話でよく出てくる「小春」「ユウジ」という名前によって私の中で彼らは名字ではなく名前の方がしっくりしてしまっていたからだ。
「ええよ。アタシらも【名前】ちゃんでええ?綾子がよく名前で話すから覚えてもうて」
私のお願いに小春くんは快く頷いてくれる。
そして私も小春くんの要望に快く頷いた。
お互いに綾子ちゃんを通してよく名前を聞くので同じ様な現象が起こっているのだろうと思ったら何だか面白くなってしまって笑ってしまった。
そんな私の心情を察してか小春くんも笑ってくれたので良かった。
私達が笑い合っていると横でユウジくんが何とも言えない表情でこちらを見ているのに気が付く。