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ゆるやかな速度で

第7章 5.始動



「は、はい!?」

自分でも驚いて咄嗟に手が口を抑える。
その一連の動作に先生は驚いた様だが、私が緊張し過ぎて取ったおかしな挙動だと受け取ってくれた様で「そんな緊張せんでええよ」と笑う。
そして自己紹介をして欲しいと言われる。
その言葉で新学期のクラスで恒例である自己紹介の時間を思い出してしまい私は更に緊張した。
何を言えば良いのか分からないまま、私は言葉を必死に絞り出していく。

「あ…あの、その…私、こんな感じで…テニスの知識もあまりないですけど……」

自分の声が震えているのが分かった。
みんなが静かに見守ってくれているが、私は今この場から逃げ出したい気持ちに駆られる。
喋りだしても次の言葉が上手く浮かばずに頭の中は真っ白でパニック状態のままだった。

ぐるぐるとよくないネガティブな感情が自分を取り囲んでいくのがよくわかる。
どんどん不安になっていき俯きそうになってしまうが彷徨わせていた私の視線がふと一点に定まる。
どうしてその場所に視線が定まったのかというと、そこから私に向けて強い視線を感じたからだ。

そしてその視線の先にいたのは白石くんだった。
彼は私をジッと見つめていたが、その視線は不思議と私の中で嫌なものとして扱われなかった。
私の視線に気付いたのか、普通にしていた白石くんが私に向けて小さく口を動かす。
口の動きはゆっくりと「だ い じょ う ぶ」と動いた。

その動き終わるのを見て、私の中で自然と緊張が解れていくのが分かる。
少し息を吸い込んでから私はスッキリとした頭で続きの言葉を紡いだ。

「でも私…私なりに一生懸命頑張りますので、色々とご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが宜しくお願い致します!」

私が言い終えてから勢いよくお辞儀をすると拍手が聞こえてくる。
その拍手を聞いて、受け入れて貰えたのだと私は嬉しくなった。
そして最後までちゃんと言葉を言えたことに安堵し、下げていた頭をあげる。

白石くんの方を見ると優しく微笑みながら拍手してくれていた。
そんな彼を見て白石くんは何処まで私に親切にしてくれるのだろうかと思った。
私は数え切れない程に彼に助けられてきている。
彼自身は何故か私を助けたくなってしまうと言っていたが、それは彼の優しさから来るものではないかと私は思った。
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