第7章 5.始動
「謙也、酷くないかそれ」
「事実やんか。なぁ、ユウジ?」
「せやな」
白石くんの台詞に、いつの間にかやってきていたユウジくんと忍足くんが、さも当然ですと言う表情で頷いていた。
白石くんはその返しにもあまり納得いっていない様だ。
私の前では見せたことのない白石くんの態度に少し驚いてしまうが、気心の知れた友人の前ではきっと白石くんも年相応の顔をするのだろうと思った。
もしかしたら私も他の人から見たら、綾子ちゃんと一緒にいる時は他の人と一緒にいるのと違う表情をしているのかもしれない。
「そういうお笑い的なやつやって笑わすなら小春とユウジの方が適任やで?」
考え込んでいる私の事は特に気に留めてないようで会話はドンドン進んでいく。
その会話の進み具合に、私は自身に気を遣われずにいて嬉しくなってしまった。
いつもは異性と同じ空間にいる時にどうしても他の人達に気遣われてしまうから。
みんなの優しさはとても有難かったし嬉しかった。
でもその優しさが私のダメさを浮き彫りにしていきドロドロとした気持ちに苛まれてしまうのだ。
でも今この場ではそれがない。
その新鮮な空気が私は嬉しく思った。
「おー、揃っとるみたいやな」
そんな事を考えていると、先生の声がして驚いた表情でそちらを見ると先生と目があう。
「ん?どないしたん?」
私の驚いた表情を見て渡邊先生も驚いた表情でこちらを見ていた。
「な、なんでもないです。大丈夫です」
「そうか?まぁ、ええわ。みんな集まりぃー」
ただ私がそう答えると先生はあまり深く追求することなく皆に招集をかける。
そして先生の声で皆が集まってくる。
私は先生に言われて先生の横に立って、全員が揃うのを待った。
だけど、その状況に私は内心パニックに陥ってしまった。
それは、皆が先生の声に合わせて集まってきているから先生の方を向くように集まってきていたからだ。
だからその隣にいる私にも視線が必然的に集まる。
自意識過剰なのは分かっている。
それでも異性の視線を浴びると蛇に睨まれた蛙の様に固まってしまい冷や汗が流れ出てしまいそうなぐらいに今の私は緊張していた。
無意識にスカートの裾を掴んで俯いていた私は先生に急に「【名字】」と呼ばれて驚いて悲鳴の様な声をあげてしまう。