第7章 5.始動
ジッと白石くんを見ながら考え込んでいたせいで白石くんは「ん?」と私の視線に反応をしてしまう。
私は慌てて「大丈夫です」と説明を聞いて理解した旨を返すと白石くんは「飲み込み早いな」と褒めてくれるので嬉しくなる。
私は迷惑をかけないようにしなければと内心意気込んだ。
「もしかしてやけど…緊張しとる?」
「え?」
するとそれを見透かしたのか白石くんが私に質問する。
私は何故分かってしまったのだろうかと戸惑ってしまう。
その戸惑いを察したのか「勘やから、たまたまやで」と笑う。
そして何か考え込んでから驚く言葉を私に放った。
「えっと…じゃあ俺が今から取っておきのギャグを言うから、それで緊張を解すとかどや?」
「白石くんがギャグを?」
私は驚いてしまう。
白石くんもギャグを言うのかと…。
でもよく考えたら四天宝寺に通う生徒の殆どはお笑い好きな人が多いから当たり前の事だと思い出す。
私がこの学校に進学した理由の方が珍しいだろう。
私はお笑いを見る事や、その類いの話をする事は好きだけれど自身はあまりお笑いのセンスがないのであまり面白い事を言えない生徒だった。
ノリが悪いななんてきっと他の人に思われているのだろうなと思うけれど、皆ほど頭の回転が速いわけではないのでどうしても素早く面白い事を言えないのだ。
いくら普通の勉強が出来たと言ってもそういった方面はサッパリなので私は綾子ちゃん達の様にお笑いセンスがある人達の方が羨ましいと思っている。
なので白石くんは何をするのだろうかとワクワクしながら彼の次の言葉を待った。
「止めとき、止めとき。白石の一発ギャグおもんないで」
すると、急に白石くんの後ろから現れた人物の言葉がこの場に放たれる。
私は驚いて視線をそちらへと向けた。
そこには同じクラスの彼が立っている。そう確か…忍足くんだ。
最近はクラスをちゃんと見れるようになってきていたので私は名前がちゃんと浮かんで内心ホッとした。
クラスメイトなのに名前を覚えられていなかった今までの自分の失礼さには本当に呆れてしまう。
そう思いながら、ふと横に目線をずらせば少しだけ不服そうな視線を忍足くんに向ける白石くんが目に入る。
彼もこんな表情をするのだなと驚いてしまう。