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ゆるやかな速度で

第7章 5.始動



金太郎くんと綾子ちゃんと楽しく過ごした昼休みはあっという間に終わってしまい、午後の授業も完了して私は今テニス部のコートに立っていた。
一旦、そのままで良いと言われていたので制服姿のままでコートでテニス部の人達が揃うのを待っていたけれど、突き刺さる視線に居たたまれなくなってきて俯いてしまう。
確かに突然制服姿の女子生徒がテニスコートに立っていたら何事かと思うだろう。
私が部員ならきっと不思議に思って見てしまうと分かっていても、今は私の立場はそちら側ではない。
突き刺さる視線が辛いが、でもそんな事も慣れてしまわないと私は変われないとギュッとスカートの裾を掴んで俯いていた顔をあげる。

「1人で待たせて堪忍な」
「――っ!?」

顔を上げた瞬間に肩をぽんっと叩かれて声をかけられてしまい驚いて声にならない悲鳴をあげて肩を揺らしてしまう。
驚いた表情のまま話しかけられた方を向くと、そこには白石くんが立っていた。

「驚かせてもうたな」
「わ、私の方こそ考え事してて驚いてしまって、ご、ごめんなさい」

勢いよく私が謝罪すると「謝るようなことじゃないで?」と白石くんは笑う。
彼に笑われてしまった事で少し恥ずかしくなってしまう。

「もうそろそろ、みんな集まるから先に少し説明させてもらうな?」
「はい」

白石くんの言葉で私は制服のポケットにしまっていたメモ帳とペンを取り出す。
白石くんが前に以前のマネージャーさんが書いていた資料があると言っていた気がするが、それ以外にも覚える事がたくさんあるだろうと思い買っていたメモ帳を私は持ってきていた。

それを見ていたからなのか、白石くんの説明はゆっくりと話してくれて私がメモを取る時間を確保してくれる。
彼の心地の良い声を聞きながら私は要点をメモ帳へと書き込んでいく。
白石くんの気配りが行き届いているおかげで簡単な事前説明部分はきちんとメモを取り終えられて私はホッとした。
こんな細かな事まで気が回るなんて部長を努めているからなのだろうか?それとも白石くん自身が凄いのだろうか?
両方なのだろうなと私は思った。
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