第7章 5.始動
「少し…食べる?」
「ええん!?」
「うん」
私が頷くと凄く嬉しそうに笑って「おおきに!」とお礼を言い、金太郎くんはパクパクと勢いよく食べる。
私のお弁当のおかずの数が多くないのもあるが、ぺろりと一瞬で食べ終わってしまい彼の食事ペースの速さに驚いてしまう。
確かにこれじゃあ食べても直ぐにお腹が空いてしまいそうだと納得してしまった。
「そうだ。私ね、今日からテニス部に入部したの」
私は先週の事を思い出して、金太郎くんにそう告げる。
告げられた金太郎くんの瞳が段々と大きく見開かれていく。
「ほんま!?【名前】もテニスやるん!?」
「私はマネージャーだからやらないよ」
私がクスクスと笑いながら答えると「なんやー、テニスはしないんかぁ」と残念そうに言われてしまう。
金太郎くんも遥斗もテニスという競技の魅力に今は取り憑かれていて楽しんでいるのだなと私は自分の事の様に嬉しく思ってしまった。
「てか綾子はやらへんの、テニス?」
「私?私はやらへんな」
「えー!おもろいのに」
綾子ちゃんが少し考えてから金太郎くんの質問に答える。
すると金太郎くんは綾子ちゃんの返事がお気に召さなかった様でふてくされている。
「人それぞれやろ、面白さなんて」
「そうかも知れへんけどー」
でも綾子ちゃんは金太郎くんの不服そうな表情に、お構いなしな様で彼の言葉に同調することはなかった。
「今の私にはお笑いの方が何より楽しいねん。金太郎だって好きなものとそうじゃないものあるやろ?」
「まぁ…それはそうかもしれへんな」
テニスの楽しさについての議論に先に折れたのは金太郎くんの方だった。
綾子ちゃんだってテニス自体、否定する気はないのだ。
でも彼女にとっては、金太郎くんにとってのテニスの部分がお笑いなのだ。
その気持が分かったからこそ金太郎くんも綾子ちゃんの気持ちをくんでくれたのだろう。
でも互いに好きなテニスとお笑いの話をしながら話が進んでいくのは純粋に凄いなと隣で聞いていた私は感心する。
そんな2人の議論を私は隣で聞きながら心地よい会話の渦の中に身をおいたのだった。
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