第7章 5.始動
「そうやんな…堪忍、ほんまに変な事聞ぃた。忘れて?」
「うん。……その、もしかして綾子ちゃんは…白石くんの事が好きなの?」
私が綾子ちゃんにそう聞くと、彼女の瞳が大きく開かれる。
そして今まで見たこともない程に驚いた表情で私を見ていた。
綾子ちゃんが白石くんを好きだから驚いたのか、それとも私が恋バナに乗っかった方に驚いたのか分からない。
そう言えば私、本当にこう言った話をしたことが無かったなと思い出した。
「ちゃうわ!」
「わっ!?」
急に綾子ちゃんが大声を出すから私は驚いて悲鳴をあげてしまう。
それに気付いた彼女は謝罪をしてくれる。
「堪忍、【名前】に言われた事が脳内処理が追いつかなくて固まってたわ」
「そ、そうだったの?」
「白石くんを私が?ほんまにないわ」
笑いながら綾子ちゃんが否定をする。
彼女の仕草や表情をジッと観察してもいつもの彼女で本心で言ってくれていることが分かると何故か私はホッとしてしまう。
そして、その安堵が出た事に、何故――?と自身の気持ちに戸惑うが今の私にその感情が何を意味しているのかなんて分からなかった。
「今までこういった話避けとったけどな…」
「うん」
「正直言うと……私、あまり同年代に興味なくてな」
「そうなの?」
綾子ちゃんからの言葉に驚いてしまう。
そして彼女は今まで私に気遣ってそう言った話題を避けていたのだと気付く。
本当に気を遣わせてしまってばかりだと反省する。
「俳優で言うとこの間ドラマ出て話題になってた人おるやん?その人とか…後はお笑いの人で言うと最近、【名前】にDVD貸したやろ?あの人とか…そういう感じの人が好きなんよ」
「そうだったんだ」
綾子ちゃんの言っている有名人の人はTVとかの情報に疎い私でも分かる人達だった。
渋くて素敵な俳優さんと、大人で落ち着いている雰囲気を持っているお笑い芸人さんだ。
有名人2人を思い浮かべて私は綾子ちゃんは年上の人が好きなのかな?と思った。
それなら確かに同年代の人達は子供っぽく見えてしまうのかもしれない。