第7章 5.始動
それは私が今まで異性を恋愛の対象としてきちんと向き合えていないからだった。
だからといって私が同性を恋愛対象として見ているというわけではない。
どうしても苦手意識が先行してしまい私は男の人に対してそういった好意を向ける事が出来なくなっていた。
今までの学校生活で私に対して好意を向けてくれてそれを言葉で伝えてくれた人は何人かいた。
私に誠心誠意、想いを告げてくれた彼らはとてもいい人たちだったと思う。
それでも、その 好き という好意を私に向けられることが今の私にはとても恐ろしいものだった。
好意というものは、どうしても私にとって幼い時の彼らを思い出してしまうものだったから…。
変わりたいと願うけれども根本的な解決には私はまだほど遠い位置に立たされているのだと再確認させられてしまい、私は隣にいる綾子ちゃんに気付かれない様にそっと自嘲した。
「…変なこと聞いてごめんな」
私が考えこんでしまっていると綾子ちゃんに謝罪されてしまう。
驚いて顔をあげて横を見れば申し訳なさそうにしている彼女と目があった。
「私の方こそ考え込んじゃってごめんね」
私が謝罪すると綾子ちゃんは首を左右に振った。
先程まで普通だった彼女の瞳が悲しそうな色をしていた。
私がそうさせているのだと思うと胸が締め付けられる様に苦しかった。
私はいつまで綾子ちゃんに心配をかけさせているのだろうか…。
だからこそもう心配いらないと伝えたくて私は彼女の質問に答えた。
「そのね…白石くんにはとても親切にしてもらってて素敵な人だなとは思ってるけど…それが恋愛なのかは分からないかな」
綾子ちゃんは私の返事に驚いた様で、驚愕した表情で私を見ていた。
今まで恋愛に紐づく直接的な話題をしてこなかったから、きっと凄く驚いたのだと思う。