第7章 5.始動
「で、本当に入部したん?」
「……うん。勝手にごめんね」
「いや、私は【名前】がええなら、ええんよ?」
昼休みの中庭のベンチ。そこに座って私と綾子ちゃんは話していた。
今朝、渡邊先生に入部届を出してから休み時間で綾子ちゃんに軽く入部した事は伝えられたのだが詳細を話す程の時間が毎回出来ずにいた。
お昼に2人きりになれてようやく私は休日の間に起きた出来事を彼女に話し終えた所だった。
「その…いつもは綾子ちゃんに相談するでしょ?だから」
「私に遠慮なんてせんでええよ?私は【名前】がやるなら応援するわ」
そう言って綾子ちゃんは私に微笑む。
おばあちゃんの言った通り、やっぱり私は周りの人達にとても恵まれていて、こんなにも優しい人で溢れているんだ…と再実感した。
「それにしてもテニス部ねぇ…。……変な事聞いてええ?」
「うん?」
綾子ちゃんが神妙な眼差しで私を見る。
私は何を言われるのかと、ゴクリと息を飲み彼女の言葉を待った。
「…白石くんの事、好きなの?」
「え?」
――好き
その言葉で驚いてしまって私は固まってしまう。
綾子ちゃんの言った 好き という意味は、私が綾子ちゃんに向ける友好的な意味や、遥斗に向ける家族的な意味ではない。
多分、異性としての 好き という感情の意味。
今までそんな事を考えた事もなかった私は驚いてしまった。
私が、白石くんを…好き?
ふと思い出すのは今まで親切にしてくれた彼の笑顔だった。
綺麗に微笑んだり、少しだけ照れくさそうに微笑む顔立ちの整った彼。
客観的に見れば彼はとても素敵な人だと思う。
あんなにも綺麗な顔立ちに、落ち着いたトーンの声音、優しい言葉、親切にしてくれる行為。
どれをとっても彼は素敵な人だ。
でもそれに対して私が彼に恋をしているのかと言われると何も言えなかった。
とても素敵な人だと思う。
感謝してもしきれないぐらいに私は今、彼にとても親切にしてもらっている。
でも…だから好きになるかと言われると分からない。