第6章 4.決断
一昨日まで入院していたおばあちゃんは昨日西村さんが手続きを済ませてくれていて家に帰ってきていた。
久しぶりにこの家の住人が増えて嬉しいはずなのに私はずっと先程のようにボーッとしてしまっていた。
それのせいで何度か遥斗や西村さんに心配されて声をかけられていたのにまた食器を洗いながら考え事をしてしまっていたようで、洗い終わっていたのに水を出しっぱなしにしていた。
おばあちゃんに声をかけられなかったら、ずっとこのままだったかと思うとゾッとする。
「おばあちゃんこそどうしたの?」
「お茶でも飲もうと思うてな。ポットに水入れに来たんよ」
「じゃあ私がやるよ」
「そうかい?」
私がおばあちゃんの手からポットを受け取り再度蛇口を捻り水を出す。
今度はぼんやりせずにきちんとポットに水を入れ終わり蛇口を閉める。
そして私はポットをおばあちゃんに返さずに『運ぶよ』と言って、おばあちゃんの部屋までそれを運んだのだった。
「……【名前】」
おばあちゃんの部屋でポットを所定の位置に置くと、いつの間にかおばあちゃんが縁側の方に座布団を2つ敷いてくれていて名前を呼ばれる。
おばあちゃんの瞳は真剣な眼差しで私を見ていて驚いてしまう。
何か話があるのだろうと、ゴクリと息を飲み込み返事をする。
「久しぶりに2人で話さないかい?」
「うん」
私は促されるままに縁側の座布団に腰を下ろす。
今日も天気は良くて、春の日差しが暖かかった。
この縁側は相変わらず心地いいなと思った。
「【名前】…何か悩んでるんじゃないかい?」
「え?」
私が座ったのを見届けてから、おばあちゃんはそう告げる。
驚いて隣にいるおばあちゃんを見れば、おばあちゃんの瞳は慈愛に満ちている表情をしていた。
きっと私が何かに悩んでいる事を直ぐに気付いたから部屋に招いてくれたのだろうと、ようやくここで気付いた。