第2章 1.きっかけ
私が上手く話せないでいると、こちらの事情を知っていたのか、私が狼狽えて上手く話せなくてもその事には特に触れないでくれた。
そして自分がテニス部にいてその入門書を新入部員の為に借りにきたことを話してくれた。
「ご、ごめんなさい…。その、眺めてただけなので…」
「気にせんといて。むしろこないな話したらそう思うよな。そないなつもりはなかったんやけど、堪忍な」
そう言って、本を差し出した私に対して彼は謝った。
そして私が先に持っていたのだから気にせずに本は借りて欲しいとも付け加えてくれる。
でも、同年代の男子が苦手な私は、どう返事をしていいか、何を言えば良いのか分からなくなってしまう。
前もって話しかける心の準備が出来ていれば、辿々しくとも何とか会話は出来るが、こんな風に突然話しかけられてしまうとどうしていいか分からなくなってしまう。
そんな自分が嫌だった。
「えっと…俺ばっか色々と話しかけて、堪忍な。テニスに興味あるのかと思ったらつい話しかけたくなってな」
申し訳なさそうに言う彼に、私は慌てて首を振る。
彼は何も悪く無いのに、私が上手く話せないばっかりに気を遣わせてしまった。
「そ、その…私の方こそ…上手く話せなくてごめんなさい。弟が…」
「弟さん?」
辿々しい私の話しを、彼は責めるでも、急かすでもなくただ優しく聞いてくれる。
緊張はしたままだけど、いつもと違う会話の空気に、私は普段よりは話しやすいと少し感じていた。
「弟が…テニスが気になるって言っていて…」
「ほんでその入門書を借りようとしてたん?」
私は彼の問いに頷く。
すると何かを考え込む様な仕草をした後に、彼は私にとって驚く言葉を放ったのだった。
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