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ゆるやかな速度で

第2章 1.きっかけ


きっかけなんて些細な事なんだと思った。

3年生になって2日目。
クラス替えして直ぐの簡単な自己紹介の時間という、私にとって嫌な時間が終わってくれた翌日。
相変わらずこの時期の夢見は悪くて、気分が晴れないまま図書室へと足を運ぶ。

私と違って社交的な弟の遥斗は新学期になってすぐに友人が出来た様で、その子がテニススクールに通っているらしく「テニスしてみたい」と私に告げたのは昨日のこと。
それを聞いて、私はテニスの知識がなくて直ぐに何かを言ってあげることも出来なかったので、まずは何かテニスに関する本を読んでみようと思い図書室へとやってきた。

そして運良く入門書を見つけて、パラパラとページをめくる。
中学校の図書室の本だけど新品の様に綺麗に扱われていたテニスの本は綺麗な写真と共にラケットの持ち方やフォーム等が親切な解説付きで載っている。
親切な入門書だなと思いながら本を読んでいると、本に集中していたので人が近付いた気配に全く気付いていなかった私は突然声をかけられて驚いてしまう。

「【名字】さん、テニスに興味あるん?」
「――っ」

急に話しかけられた声音はどう聞いても男子の声で私はビクッと肩を揺らしてしまう。
驚きながら声をかけられた方向へ体を向けると、そこには1人の男子生徒が私の手にある本を指さしていた。

「あ、急に話しかけて堪忍な」

謝られて私は慌てて首を左右にふる。
彼は何も悪くない。
ただ私が勝手に驚いてしまっただけだ。

視線を彼にあわせる為に私は泳がせてた目を彼にきちんと向ける。
整った顔立ちに綺麗なミルクブラウン色の髪。
そう言えば昨日クラス替えをした時に恒例となっている自己紹介の時に見た人だと思い出した。
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