第3章 2.不思議な人
「朝、ばあちゃんの部屋、掃除するって言ってたけどええの?」
「あ!」
遥斗の言葉に私は朝、遥斗に話をしたことを忘れていた事を思い出した。
来週に病院から帰ってくるおばあちゃんの部屋を掃除し直しておこうと思っていた事を。
西村さんが定期的に掃除をしてくれていたし、私も休みの日は軽い掃除はしていたので部屋自体は別に汚れているわけではない。
でも部屋の主いない場所は何だか空気が少しだけ淀んでしまっている様に感じて、今日は軽く掃除して空気の入れ替えをしようと思っていたのだった。
「遥斗があまりに楽しそうだったから見入っちゃって忘れてた」
なんて私が言うと、遥斗は笑いながら「姉ちゃんオモロイわ」と笑う。
でもその笑みは決して私を馬鹿にしたものではなく、少し照れくさいのを隠すような笑いだった。
遥斗がテニスをとても楽しんでいるのが伝わってきて私も嬉しくなる。
「あの、白石くん」
私が縁側から白石くんに声をかけると、私から話しかけられるとは思っていなかったようで少し驚いた表情をしている白石くんと目が合う。
「色々とありがとう。遥斗の事、お願いします」
私がそう言って頭を下げると、その事に驚いたのかワンテンポ遅れた返事が向こう側から帰ってくる。
「元々は俺から言い出した事だし気にせんといて!」
私はその声で頭をあげた。
遥斗の傍で、白石くんが困った表情でこちらを見ていた。
私が仰々しくお辞儀なんてしたから困ってしまったのだろう。
だから私は違う言葉でお礼を述べようと、意を決して息を吸い込む。
「白石くん、ありがとう!」
きちんと聞こえる様に、さっきよりも声を張り上げて言葉を述べる。
私が大きな声でそんな事を言うなんて思わなかった2人は、ぽかーんとした表情で私を見ていた。
私はその表情が見たことの無いもので、少し吹き出してしまう。
そしてそんな2人に背を向けて私はおばあちゃんの部屋へと向かう。
少し頬が熱く感じるのは、大きな声を出してしまった事に対する羞恥心だと気づかないふりをして早足で廊下を駆け抜けたのだった。
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