• テキストサイズ

ゆるやかな速度で

第3章 2.不思議な人



そんな2人が少ししてから、庭でラケットを触り始めたのを私は縁側から見ていた。
白石くんの話を遥斗はちゃんと聞いている様で安心する。
そして彼の話を真剣に聞いている遥斗の表情はとても真面目で真っ直ぐな瞳をしていた。
私の前では、お調子者な感じに無邪気な弟という面しか見せてくれなかったので、あんな表情もするのだなと弟の新たな面を知ることが出来て嬉しかった。

いつの間にか口での説明は終わっていた様で、白石くんが遥斗から少し離れた位置へと移動する。
そして遥斗はある程度距離が離れたのを確認すると、ラケットを思いっきり振った。

ブンッと小気味良い音を立ててラケットが空を切る。
ボールを返したわけではない。
ただラケットを綺麗なフォームで振っただけだ。
だけど、遥斗は凄くキラキラした表情でラケットを1,2とテンポよく振り抜いていく。

それだけで私は分かってしまった。
遥斗が凄くテニスを楽しんでいることを。
あんなにも楽しそうな表情で何かをしているのなんて初めて見た。

私と一緒にいる時にあまり見せたことのない楽しそうな表情に嬉しさと申し訳なさとで複雑な感情が私の中で入り混じっていくのを感じた。
遥斗のこと、お姉ちゃんとしてちゃんと見てなくちゃと思っていたのに、全然そんな事が出来ていなかったんだと思い至る。
いつも自分の事ばかりに精一杯で、遥斗にも綾子ちゃんにも迷惑かけてばかりだ。

でも2人は私を責めたことなんて1度もなかった。
2人の優しさに甘えてばかりだと改めて認識する。
私は2人に何かしてあげられているだろうか?

「姉ちゃーん!」

私がそんな事を考えながら、ボーッと縁側から見つめていると遥斗が私を呼ぶ声がして我に返る。
遥斗を見れば、2人とも私を見ていて、遥斗は不思議そうな表情で私を見ていた。
/ 166ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp