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ゆるやかな速度で

第15章 13.距離


「ここなんだけど」
「あれ、ほんまや。どこかで引っかけたんかな?」

不思議そうに白石くんは私が手で掴んでしまった裾を持つ。
その時に不意に指が触れてしまい私は驚いて手を放してしまう。
わざとらしく拒否したようにも見えてしまいそうで私は慌てて弁明する。

「ご、ごめんなさい。嫌とかじゃなくて、驚いちゃって」
「分かっとるよ。不用意に触れてしもうて、こっちこそ堪忍な」

そう言って優しい声音で白石くんが返事をしてくれる。
その優しい言葉に私の胸が熱くなる。

「あの…白石くんが嫌じゃなければ裾、そこまでほつれてないし縫っちゃおうか?」
「え。【名前】、ソーイングセット持ち歩いてるん?」
「遥斗がよく服を引っかける事が多くて持ち歩いてるの」
「あぁ、なるほどな」

私の言葉に白石くんは納得したようで笑みをこぼす。
私はそれを見てから立ち上がり自分の鞄からソーイングセットを取り出す。
それをテーブルの上に置いて準備をする。
そして、いざ裾を縫おうとして我に返る。
白石くんにユニフォームをどうしてもらうのが良いのだろうか…と。

脱いでもらうのが1番早く仕上げられるけれど、その間、白石くんが薄着になってしまう。
いくら最近暑い日もあるからといって、それは良くないなと思い彼に提案をする。

「その…白石くんさえ良ければなんだけど、このまま縫い始めても?」
「え?脱がんでええの?そっちの方が早いんやない?」
「でも、白石くん薄着になっちゃうでしょ?それなら着てもらったままの方がいいかなって。ただ…その…私が近づくから嫌じゃないかな?って」
「俺は嫌やないよ。【名前】こそ平気なん?」

白石くんはそう言って私の事を心配そうに見る。

「その…緊張しないって言ったら嘘になると思う。でも…白石くんは…大丈夫だと思うから。緊張するけど」

私がそう言うと白石くんが肩を揺らして『堪忍な』と小さな声で謝りながら笑う。
私はそんなにおかしなことを言ってしまったのかと不安になるが、決して白石くんが馬鹿にした笑いではないことは分かったので私は気恥ずかしさだけで顔が暑くなるのを感じていた。
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