第15章 13.距離
「まさかと思うんやけど、野宮さんと上手くいってへんとかある?」
「え?」
「いや…今日の担当が逆になっとるなと思うて…。遠慮せずに言って欲しいんよ」
「ち、違うの!」
白石くんの言葉に私は慌てて否定をする。
まさか担当を交代したことで、そんな風に思われるだなんて思っても見なくて驚いてしまった。
私を不安そうに見る白石くんの表情に私は何も心配することはないのだと説明をすべきだと思ったけれど、どこまでどう話そうかと少し悩んでしまう。
けれどいつまでも悩んで黙っていると、そちらの方がまた逆に怪しいなと思わなくもないので私は上手く説明できるか心配だけど話し始めたのだった。
「由衣香ちゃんね、苦手なんだって。ノートにまとめるの。だから今日だけ交代したの。今度別に時間を取って説明するためにも私もどうやって教えようかなと思いながら今書いてるから少し進みが遅くて…」
「苦手…?」
「うん。由衣香ちゃん、手際良いからそんなイメージないよね。私もさっき驚いちゃって」
私がそういうと白石くんも意外だったみたいで『意外やな』と言葉を漏らす。
私はその言葉に小さく頷いた。
「なんでも、そつなくこなすタイプかと思っとったわ」
「私も…。もしかしたら、そう見える様に振舞ってる努力家なのかも」
「かもしれへんな」
私と白石くんはそう言ってお互いの顔を見て微笑む。
新人マネージャーが有望な努力家で、来年以降も安泰に思ったからだろう。
「なんも問題ないようで、ほんま安心したわ」
「変な心配させちゃってごめんね」
「ええんよ。俺が勝手に心配しただけやし。じゃあそろそろ行くな」
そう言って白石くんは立ち上がる。
けれど立ち上がった瞬間に白石くんのユニフォームの裾がほつれているのが目に入り私は彼を呼び止めた。
「白石くん、裾のところ」
「え?裾?」
私の言葉に白石くんは不思議そうに何処の裾だろうかと自身のユニフォームを探る様に手で触れるので私はどこの場所か分かりやすいように彼のユニフォームのお腹辺りの部分をつかむ。