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ゆるやかな速度で

第15章 13.距離


「その…白石くんはこの後も練習で汗かくこともあるかと思って。それなら私のタオルの方が良いかなって…」

差し出したタオルを受け取ってもらえなかった事に不安に苛まれたけれど、そう言えば何故差し出したのか理由を言っていなかったと思い出して私は慌てて弁明をする。
即座に行動して後先考えない事をしてしまい、恥ずかしくなる。

「そういうことか。ありがとうな。有難く使わせてもらうわ」

白石くんはそう言って私からタオルを受け取って、それで頭をわしゃわしゃと拭く。
びしょびしょに濡れたわけではなく、少し水をかぶっただけだったからタオルで何度か拭く事で乾いたようだった。
なので私が白石くんからタオルを受け取ろうと手を差し伸べれば彼に拒否されてしまい不思議に思っていると白石くんは少し照れた表情で私に告げる。

「いや…流石に自分の頭拭いたタオルそのまま返すとかせんよ?ちゃんと洗って返すから」
「でも、そこまで濡れてないし、バッグに入れられるし」
「いや…なんちゅうか気持ちの問題というか…例えばやけど、【名前】は逆の立場なら素直に返却するん?」

そう白石くんに言われて私と白石くんの今の立場が逆だったらと想像してみる。
確かにそれは、上手く言語化出来ないけれど洗って返したいなと思えた。

「あ…その、じゃあお言葉に甘えて…」

私がそう答えると白石くんはホッとしたような表情をしてから私のスポーツタオルを自身のロッカーへと入れてロッカーを閉じる。
そして外へと行くのだろうと思っていたのだけれど、何故か白石くんは私と一緒にテーブルまでやってきて、私の隣の席に着席した。
何故と思って隣を見れば白石くんが真剣な表情で私を見るので、また何か間違えただろうか?と思っていると白石くんが話始める。

「そのな…デリケートな問題かもしれへんけど確認させてな?」
「はい」

白石くんの声音に私はとても真面目な話なのだと思い、背筋を伸ばして緊張した声で私は返事をし頷いた。
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