第15章 13.距離
入部した後で由衣香ちゃんに聞いたことだけれど、野宮くんと由衣香ちゃんは従姉弟にあたるそうで、彼がこちらに引っ越してきてからずっと一緒に過ごしているらしい。
それを聞いて野宮くんが合宿の時に私に話してくれた従姉弟の存在を思い出してしまい、由衣香ちゃんの恋が前途多難そうであるのを察してしまった。
彼女自身もそれは理解しているようで、だからこそ必死だったらしい。
恋をしたことがない私にとっては由衣香ちゃんの話は新鮮でそして興味深いものだった。
私では何も力になれないかもしれないけれど、彼女の想いはいつか報われて欲しいと思ってしまった。
私も、いつか彼女の様に誰かに恋をして必死になれるのだろうか?
ふと…そんな事を思ってしまった。
今は恋をする余裕なんてない…と思う。
テニス部の人たちのおかげで少しずつ異性と話せるようにはなってきたけれど、それと恋愛は別な気がする。
いつか私も恋をして由衣香ちゃんみたくなるのだろうか?
想像がつかないな…と思いながら私は彼女と交代した作業をするために部室の方へと駆けて行ったのだった――。
***
「あれ、今日ここ野宮さんがやる作業やなかったっけ?」
部室で黙々とノートの整理をしていると扉が開き白石くんが入って来る。
心なしか髪の毛が少し濡れているように見えて私はどうしたのかと視線を頭に集中してしまうと、それに気付いた白石くんが苦笑しながら話してくれた。
「これな、金ちゃんが急にコートに水撒くのやりたい言うからやらせたら大惨事でな。止めに入ったら俺だけ水を頭から被ってしもうて。かっこ悪いな」
「そんな…かっこ悪いなんて事ないよ!」
「あはは、ありがとな」
そう言って白石くんはロッカーから自分のタオルを出そうとしているのだと気付いて私は勢いよく立ち上がって自分の荷物からスポーツタオルを取り出して白石くんに差し出す。
彼は私が急に立ち上がった事に驚いたようで、自身のロッカーを開けてから私を見ていたようでまだタオルは取り出していないようだった。