第14章 12.羨望
「どないしたら先輩みたくなれますか?」
「え?私?」
「私…ここ最近ずっと見てました、先輩の事。せやけど私には真似できそうにない。もうどないしたら彼が振り向いてくれるのか私には分からへん。先輩にはあないに普通に話しとんのに」
その言葉で私は、ふと思ったことがあり止まってしまう。
もしかして…と思い、私は彼女に疑問をぶつけた。
「あの…見てたって…もしかして、ここ最近ずっと私の事を?」
「はい…。ごめんなさい、そないなことして…。せやけど、どうしても先輩みたいになりたくて」
彼女の言葉に私はここ暫くの視線が気のせいではなかったことが判明して、ホッとしてしまう。
自意識過剰になったわけでも、体調が悪いわけでもなかったのかと安心をした。
でもそれと同時にもう1つ別の疑問が彼女の言葉で生まれてしまう。
『彼が振り向いて』とは誰のことを指しているのだろうか?
私とは普通に話すと言われて、テニス部の人たちしか今はまだあまり上手く話せていないことからかなりの人数が絞れてしまった。
そして、ふと私の中で白石くんの事が頭をよぎってしまい自身に驚く。
なんで急に白石くんが…?と自分自身に困惑して黙っていると、野宮さんが切実な表情で隣に座る私に身を寄せて言葉をさらに続けた。
「お願いします、先輩。どうしても私、彼に…ふぅくんに振り向いて欲しいんです!!!」
「……ふぅくん?」
野宮さんの言葉に思考が停止してしまう。
ふぅくんと呼ばれている人に心当たりがないからだった。
テニス部に来て全員のフルネームはまだ覚えきれていない。
ふぅくんという事は多分苗字か名前に対するあだ名だと思ったのだけれど、そう呼ばれている人を聞いたことがないので私は戸惑う事しか出来なかった。
「あの…野宮さん?ふぅくんって…?私、まだ全員のフルネームまでは覚えてなくて…」
私の言葉に彼女も停止する。
私たちはお互いに顔を見つめあい数秒が経った。