第14章 12.羨望
「…え、先輩、ふぅくんのフルネーム知らんのですか?」
「た、多分。誰もそう呼んでいるの聞いたことがなくて…」
「え、せやけどこの間、職員室の前で仲良さそうに寄り添いあって話してましたよね…?」
「え!?だ、誰とも寄り添いあってはいないけど……?」
私と野宮さんは再度お互いを見つめあい、停止してしまう。
職員室の前で寄り添いあったことなんて誰ともないので誰の事を指しているのか心当たりが…と思っていると、ふと先日のことを思い出したので私は彼女に質問をする。
「そう言えば、寄り添いあってはいないけど、職員室の前でこの間、野宮くんと……あれ?そう言えば野宮さんも同じ苗字…」
「え、寄り添いあって…ない?せやけど、私、この間、見ましたよ!?ふぅくん――野宮楓真くんと寄り添いあってましたよね!?」
「え!そ、そんなことしてないよ!?野宮さんもあの時、あの場に居たってこと…だよね?」
「はい、ふぅくん探してて…見つけたので声かけようとしたら急に彼が先輩に近づいて…」
何故か私と野宮さんの認識に齟齬があるようで、2人でその時の状況を整理して話し合っていく。
丁度いい所に木の枝が落ちていたので、木の枝を使って目の前の地面に廊下といた位置を描いて2人で話し合っていく――。
「…わ、私の勘違い…」
状況を整理していくと、野宮さんの勘違いということが判明してしまい、彼女は顔面蒼白になってゆく。
私は誤解が解けたことに少しホッとしてしまう。
「あの…勘違いは誰にでもある事だと思うし、私も別に野宮さんに嫌がらせされてたわけじゃないから気にしなくて…」
「そ、そういうわけにはいきません!私、めっちゃ先輩の事、観察しとったし…」
「確かに、時たま視線は感じたこともあったけれど、四六時中じゃなかったしそこまで気にしなくても大丈夫だよ?」
私がそう言っても彼女の方は納得がいかないようで、野宮さんは考え込んでしまう。