第14章 12.羨望
「先輩」
急に後ろから話しかけられて驚いて振り返ればそこには私を見て微笑んでいる野宮さんが立っていた。
いつもは早めに部室を借りて着替えるのだけれども、今日は思ったよりボール整備に熱中してしまい気が付けばみんなが部室で着替える時間帯になっていたので、私は時たま借りる校舎内にある女子更衣室を目指して歩いていた。
すると先に上がっていたはずの野宮さんから話しかけられて驚いてしまう。
「野宮さん、今日はもう帰宅したんじゃ…?」
「先輩を待ってまして…。少しだけお時間ええですか?」
そう問われて私は特に断る理由もないので頷くと彼女は嬉しそうに微笑む。
廊下で話すのも…と彼女に言われて私は彼女に導かれるままに後ろをついて歩き、誰もいない放課後の中庭へとたどり着いたのだった。
「ベンチに座って話しまへんか?もしかしたら少し長くなるかもなんで」
そう言って彼女は近くのベンチへと座る。
私も彼女の隣に座って彼女が話し出すのを待つ。
「先輩ってズルいですよね」
「え」
最初に彼女から言われた第一声が予想外で私は何と返していいか分からなくなってしまった。
「……私、自分の事、可愛いって思っとります!」
そして続く彼女の言葉に更に私は何と言っていいか分からなくなってしまい何も言えないでいた。
確かに彼女はとても可愛らしいと思うので、頷くぐらいしか出来なかった。
「先輩って髪の手入れとかどうしてます?顔は?体型の維持は!?」
「えっ、あっ、え?その…特別なことは…特には…。体型は…家の庭のお掃除とかで体は動かしてたかな?」
「やっぱりズルいです。私、誰よりも可愛くなりたいん…。せやけど先輩みたいな天然の人にはかないそうにもない」
そう言って彼女は悲しそうな表情になる。
野宮さんの発言から察するに彼女は自分磨きを怠らない子ということになる。
何故、私に突然この話をし出しかのかは分からないけれど、もしかしたら同性に相談がしたかったのかな?と思い私は彼女の言葉を聞き続けた。