第10章 8.合宿02
「あの2人の夫婦漫才は別に何か言う必要もあらへん、気にすることもないから大丈夫やで?」
「忍足くん」
私がどうしたら良いか困っていたのを察してくれた忍足くんが助け舟を出してくれる。
彼のその言葉を聞いて私がホッと安堵していると忍足くんと一緒にこの場に来ていた財前くんが口を開いた。
「ほんま…先輩らアホっすね」
「な、なんやてー!」
財前くんの辛辣な言葉を聞いて先程まで漫才をしていたユウジくんが怒り始める。
こうなってしまえば必然的に彼らの漫才もストップしてしまう。
財前くんに怒るユウジくんの横で小春くんは苦笑しつつも『いつになったら笑ってもらえるんやろうか』なんて言葉を漏らしていた。
その発言を聞き逃さなかったユウジくんは更にヒートアップしかけていたので、忍足くんが止めに入った方が良いのかとしたその瞬間だった。
「おーい、準備整ったでー!」
渡邉先生の声が辺りに響く。
普段の気怠げな声とは違って張った声だったので綺麗に全体へと響いていた。
勿論それは私達がいた所も同じで先生の声で先程まで一方的に怒っていたユウジくんの声もピタリと止む。
「オサムちゃんも呼んどるし、さっさと前に方へ行こうや」
忍足くんのその言葉を聞いてユウジくんは『…せやな』と小さく告げて小春くんを引っ張って先生の方へと行ってしまった。
それを見てから財前くんへ『財前も』と忍足くんが促すと『…そっすね』とだけ小さく告げて彼も歩き出す。
そんな彼らが歩き出すのを見ていると忍足くんが私の方へと振り返る。
「前の方行った方がええで?【名字】、背も凄く高いってわけやないやろ?男ばっかやし後ろじゃ見えへんやろ」
そう言ってにっこりと忍足くんが笑う。
その発言に私は『ありがとう』とお礼を述べる。
忍足くんのこうした気配り方が素敵だなと思いながら私は先生の方へと駆け出していったのだった。
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