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ゆるやかな速度で

第9章 7.合宿01


「…【名前】?」
「あ」

ジッとフェンスの外から白石くんを見ていた事に気付かれてしまったようで私は慌ててお辞儀をする。
何でそんな仕草をしてしまったのか分からないけれど、白石くんに気付かれると思っていなかったので慌ててしまったからの行動だった。
そんな私を見て驚いたままの表情で彼はフェンスの所まで駆け寄って私の目の前まで来てくれる。

「どないしたん、こんな所で」
「お風呂に行こうと思ってたんだけど、テニスコートで音がした気がして」
「それで確認しにわざわざ来たん?」

白石くんにそう言われて頷くと彼は苦笑した。
『俺のせいで悪いな』と言われてしまったので私は慌てて首を左右に振る。

「違うの。白石くんのフォームが綺麗で魅入っちゃって」

私が正直に告げると彼は驚いた表情をしてから嬉しそうに笑ってくれた。

「褒められると悪い気せんな。俺はまだ練習するんやけど【名前】はどないする?」
「えっと…もしお邪魔じゃないなら見ていて良いかな?」
「それならここのコートの横にあるベンチに座ってな」

そう言われて私は素直に頷いてコートの中にあるベンチに移動して座る。
手にしていた荷物は自身の隣に置いた瞬間にフワリと自身の肩に何かがかかる。
驚いて顔をあげればいつの間にか白石くんが着ていたジャージを脱いでいて、それを私にかけてくれた様だった。

「まだ肌寒いから風邪引くかもしれへんやろ?」
「でもそれじゃあ白石くんが!」
「俺はまだ動くから平気やから。ここで見てるならそれちゃんと着てな?」

白石くんにそこまで念押しされてしまうと私は素直に従うしかなかった。
頷いてから彼の指示に従い、彼にかけられたジャージをきちんと着る。
ジャージを着込むと、ふわりといい匂いがして私の心臓がドキリと跳ねる。
何だかソワソワとしてしまい落ち着かない気持ちを何とか落ち着けようと、私は必死に目の前のコートで練習を再開した白石くんを黙って見つめていた。

先程までと同じ様に正確なフォームで白石くんはひたすらに相手コートへとボールを打ち込んでいく。
その姿は先程までと変わらないはずなのに、何故かキラキラと輝いて見えた。
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