第1章 This is insane
体育祭が終わり、俺とアイツと友である相澤の奇妙な関係が芽生えた。
友情と呼ぶには少し足りず、愛があるかと言えば特に無く、ただ気が付けば三人で居ることが増えた。
「来週から合宿だとよ」
回って来たプリントに書かれた文字。
職業訓練も期末も恙無く終えた教室は文字通りだらけきっていた。
わっと沸く教室、俺の左右に座る二人は静かにプリントを眺めていた。
「俺っちトランプ持ってくからやろうぜ」
「ガキじゃん」
「そんな余裕ねぇだろ」
下駄箱から靴を出しながらいつもと変わらない会話をする。
あれ程、憎いと思っていたのにいつの間にか俺の心の隙間に溶け込み居座るアイツ。
年相応の馬鹿げた会話をする俺とアイツを少し冷めた目で見る相澤。
心地良いと思ってしまった。
「なぁ千夏、明日の戦闘訓練の時間相手してくんね?」
互いに高めて行ければと思った。
夕暮れ、日が沈む。ぽつりぽつりと街の灯りが現れだした。
「いいよ。手加減したら承知しないからね」
笑った顔が、少し可愛いと知った。
ふわふわの髪の毛に、偶に触れてみたいと思う時がある。
「おい、……あれ」
はたと立ち止まった相澤が渋い顔をした。
向こうの方が騒がしい。
道行く人々が上を見あげて青ざめた顔をしている。
意味も無く瞼の上に手をかざし、視線が集まる方を見た。
「ヒーロー、ヒーローいないの?」
集団の中からそんな声がした。同時に上を見ていた視線が散らばる。
「雄英高校の生徒!!ねぇ、ちょっと助けて!!!」
求められても俺達はまだ、何も出来ないひよっこだ。
ヒーロースーツも身に纏わず、仮免許すら持っていない俺達に出来ることは何一つ無かった。
「相澤!大通りまで出て!ヒーロー来たらすぐ誘導!」
アイツが走り出し叫んだ。俺はまた、何も出来ずに立ち竦む。
「山田!一般の人離れさせて!」
声は確かに届くのに、足が鉛のように重たくて仕方ない。
「山田!」
名を呼ばれ弾かれたように上を見る人を押し退けた。
携帯を掲げる人が俺へ冷たい目を向ける。
「下がって!危ないから!!下がれよ!!!!」
怖いもの見たさ、興味本位、そういうどす黒い塊が頭上に渦巻いている。俺の声が届かない。