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Silent season

第1章 This is insane


怖いものなど、何一つ無かった。
目立つ個性、明るい未来、そして若さ。
それら全てが自分の周りを固めていた。

「クゥー!体育祭!ウズウズしちまうぜ」

中学から高校へ一歩前に進み、その根拠の無い自信は更に強くなる。新しい友も増え、輝くその先だけを見ていた。

自分は強いと、過信していたのだろう。
たったスプーン一杯程の自信だけで。

体育祭の予選なんてのはお飾りで、結局は生まれ持った個々の能力が物を言うのだ。

「相澤!ガチバトルトーナメント俺っちと当たるまで勝てよ!」
「……声量を考えろ、隣だぞ」

レクリエーションでワイワイとはしゃぐ同期を見下ろしていた。そして同時に見下してもいた。

「お前、初戦の相手見てないのか?」

濃紺のジャージを着た友が眠たそうな目で呟いた。

誰が相手だろうが、この俺が負けるなんて。

「……こりゃシヴィーな」

大観衆の見守る中、俺は頬を引き攣らせた。
呟いた一言は歓声に掻き消されて、無。

「一年最初のバトルは、目立ち過ぎが玉に瑕?A組 山田ひざし!VS静かな中に秘めた強さは如何程?A組 音無千夏」

手加減なんて甘っちょろいものは抜きだ。
だがアイツの個性と俺の個性はとにかく相性が悪い。

接近戦、肉弾戦、要は腕っ節でしか終わりは無い。

「Hey、お前と俺っちの個性は似てるようで似てねぇ」

向こうで佇み俺の動きを待つアイツに声を掛けた。

「俺っちは個性を使わねぇ。そうなりゃお前も個性、使えねぇだろ」

頭の中では次に目を開いた瞬間、アイツは俺の下にいる。
だがどうだろう、風が吹いたと思い目を開けて変な息が出た。

「……それならお互い、全力でやり合おう」

瞬間、鳩尾に痛みが走り小さな拳が俺の顎を揺らした。

「山田、うかうかしてたら足元掬うよ」

観衆が沸く。よろけた十五の子供の背中に重く伸し掛るその歓声に口の中が鉄臭くなった。
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