第1章 This is insane
「音無千夏。個性はミュート、……消音です」
春風なんて擽ったい。そう思っていた。
花粉を運んで鼻を刺激して、嚔を誘う。
「……相性悪ぃな」
人に興味が無い訳じゃない。
それでも尖っていたいと思うのが思春期だろう。
「次、山田〜」
椅子から立ち上がり息を一吸い。
驚かせてやろうと口を開けた瞬間、違和感が駆け巡る。
声が、出ない。口は動けど、声が出ない。
「……ごめん、隣の席でデカい声出すの辞めて」
それがアイツとの出会い。アイツとの、始まり。
歪で、曖昧で、変で、それでいて瑞々しい春風。