第2章 百鬼夜行
「多分そろそろ花火の時間です」
ついさっき見せた控え目な表情が嘘みたいだ。小さな巾着からスマホを取り出して笑うその顔は、まるで生きていない何か別の生き物の様だった。
「なんか買おっか」
「暑いし、かき氷買いませんか」
千夏ちゃんが頼んだのは赤いイチゴ。頬張り目尻を下げたかと思えば眉根に皺を寄せて悶える。
「赤くなりましたか?」
その言葉に顔を向ければ、舌をぺろりと出していた。白い肌、宵に紛れる黒髪、不自然に赤い唇から覗く赤い舌。それを見て、心が勝手に呟いた。
あぁ、この子は妖怪の仲間に違いない。
根拠なんて無いし、別に普通の人間だろう。でも、多分、きっとこの子は人間だとか妖怪だとか、そんな下らない枠に囚われない子だ。
「赤いね」
知らぬ間に罠に嵌って、嵌めた筈が嵌められて雁字搦めで抜け出せそうにないやと天を仰げば濃紺で、そう言えば千夏ちゃんの浴衣も濃紺だったと可笑しくなった。
「早く行きましょ」
かき氷片手に俺の手を引く千夏ちゃんは砂埃に紛れて消えてしまいそうだと、思わず目を細めて頷いた。