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Silent season

第2章 百鬼夜行


花火の観覧席付近。少しだけ空いた隙間に捩じ込む身体二つ。
肩が触れ合う距離でただ、空が明るくなるのを待った。
提灯の灯りはひとつも無くて、スマホの明かりがあちこちに咲く。

会話をと考えてもこれから直ぐに花火は上がるだろうし、今、話し始めても気持ちの悪い所で話が途切れる。
ぼんやりと人間観察に勤しんでいると、千夏ちゃんがスマホを開いて小さく言葉を発した。

「……私達、どんな関係なんですかね」

光る画面に視線を向けたまま、その横顔を見つめたまま時がぴたりと止まった。
今日で終わりにしてもいいやと思っていた筈なのに、この異質な空間に毒されたか、罠に嵌った事に気付いたからか、答えを慎重に選ぶ俺が居た。

黙りこくる俺に痺れを切らしたか、千夏ちゃんがぱっと顔を上げてスマホの画面を俺に向けた。

使い慣れたトークアプリ、見慣れたアイコン。

「……賢二郎じゃん」

最上段に記された名前を見て、最後のトークを見た。
瞬間、心臓がドン、と貫かれた様な気がした。

『花火終わったら会いたい』

「会いに行って、良いですか?」

腹に響く低い声がして、額に冷や汗が滲んだ。眼球を画面から引き剥がして千夏ちゃんを見たら、物悲しそうな笑みを浮かべて首を傾げていた。
答えに詰まって、周りから声がする。後数分で花火が上がると。

「覚は、どうしたい?」

残された時間も導き出せる答えも数少なくて、左頬が軽く痙攣した。
瞬間、大きな音がして、身体が咄嗟に動き出す。

立ち塞がるのは千夏ちゃんの前。花火から、隠してしまおう。そうしたら、花火は始まらないし、終わらない。

「……帰ろっかぁ」

大きくて仄暗い瞳に映るは俺。
その瞳に誰も映したくないと、思った。

「帰りましょうか」

ふわぁ、と浮かんだ笑みにまた背筋が凍った。
でももう、虜。

花火を背に帰る道は、見えないだけ百鬼夜行のど真ん中。
抜け出せない、抜け出したくない。

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