第2章 百鬼夜行
いつも隠れていた項が顕になって、俺の喉仏がかつん、と上がる。
白い肌に咲いた赤い口紅が目の端にちらちらと入り込むから眼球がさっきから定まらずあちらこちらに泳いで仕方ない。
「人、多いですね」
「ソダネ。夏祭りだからねぇ」
ポケットに仕舞ったままの手は何処か居心地が悪い。屋台がずらりと並ぶ道は歩きにくい。下駄を履くあの子はもっと歩きにくいに違いない。
「手、繋ぐ?」
これは、ただ自分の手を救い出す為の言い訳に似た何か。
「……誰かに見られたりしたらまずくないですか?」
はた、と立ち止まり人の波に押されよろめくあの子。
「……人混みで立ち止まったらダメだよ」
我ながらスマートに手を繋げたと思う。握った白い手は、思わず凝視してしまう程に冷たくて、そして小刻みに震えているから変な気分になってしまうのだ。
「それにもう、別に見られても構わないんじゃない?」
唇からじゅわりと赤みが広がるのだって見逃さなかった。
からかっているのか、と言われてしまいそうだけど別にそんな気は無い。ただ、あの子が、勝手にそうなってるだけだ。
「髪の毛、下ろしてる方が好き、です」
たどたどしく、そして小さく呟くから俺は小さく「ありがと」とだけ呟いた。