第2章 百鬼夜行
そんな会話から数ヶ月。
結局当日雨が降り、俺とその子は夏祭りに行くことは無かった。
だけど相変わらず、試合に来ては小さく俺に手を振る姿に目を細める事しか出来なかった。
そして相変わらず、俺の一挙手一投足に何とも言えない顔をするその子に、俺はいつだって言い難い期待を抱く。
校舎で会えばぎこちない会話を繰り返し、体育館で手を振られれば目を細める。
そんな健全な関係が崩れてしまうのはほんの些細な出来事。
「あっ、天童さん」
雨の夕暮れ。それは予報外れの雨だった。
下駄箱で空を見上げていると声がした。
「千夏ちゃんだ」
ちらりと眼球でその子を見て、また空を見上げる。
「雨、嫌ですね」
「そぉ?」
隣に立ったその子は当たり前に俺よりも小さかった。
部活が死ぬ程キツくて、それで最近凄く溜まっていて、そこに現れたその子は俺の緩んだ箍を簡単に外してしまう。
「ねぇ、今日寮の部屋一人なんだけど来ない?」
同室の若利君は、合宿に行っていてここ数日居ない。
そこに誘うなんて卑怯だなぁと唸る空を見上げて自嘲気味に笑ってみるとその子は少し間を開けて頷いた。
「……行こっか」
そうして俺とその子の少し歪な交友関係が始まった。
始まりが歪過ぎて終わりなんて少しも見えなかった高校最後の冬。