第1章 This is insane
恋と自覚したは良いが、どうすればいいか分からずにいた。
気持ちを伝えれば、何かが変わる。
伝えなければ、何も変わらない。
十六の俺は、変化を恐れた。
いや、その歪で曖昧な関係をどんな型に嵌めれば良いのか分からなかった。
漠然とした【恋】と言う大きな型に嵌め込もうとしていた。
ただ、三人でいる日々に甘えたいと思った。
「山田」
そんな俺の背中を刺したのは相澤。
「千夏は?」
鞄を漁り、忘れ物はないかと確認する俺。それをじっと見る相澤。
「職員室。先生に呼ばれてた」
「あ、そう。待っとく?」
秋の夕暮れは少し寒い。相澤の冷たい眼差しも相まって、余計に。
「音無が来る前にちょっと良いか」
そう声を掛けられて気が付けば屋上。風がないのか救いだ。
ポケットに手を入れ相澤の背中をじっと見る。
「どうした」
黙りこくる相澤に痺れを切らして問い掛ける。
出来ればくだらない、他愛のない話をして欲しい。
でも、嫌な勘ほど良く当たる。
「お前、音無の事どう思ってるんだ」
途端風が止まる。騒がしく吹いてて欲しかった。
がっちりと絡め取られた俺の視線。
「どうって?」
「好きなんだろ」
冬の前髪が鼻をくすぐる。振り払おうとして鼻で笑うと相澤も同じ様に笑った。
「相澤は?」
「分かんねぇよ、好きとか」
無理に嵌め混んだ気持ちは呆気なく弾かれる。
「でもあの日泣いてる音無を見たら変な気持ちになった」
そして始まるのは心の、答え合わせ。
「千夏の肩が妙に細っこくてさ」
「守ってやりてぇ、って偶に思う」
「でも時々、俺らがびっくりするくれぇ大人びてんだよな」
ひとつ、ひとつ、お互いの答えを照らし合わせて、あぁ恋なんて言う次元じゃあ無いんだと気がついて行く。
「でも俺は、パズルのピースじゃねぇ。これからヒーローになる為に俺らそれぞれが強くなっていかなきゃなんねぇ」
相澤が校庭を見下ろして言う。つられて下を見て、風が吹く。
「友情とか愛情とか、そんなんじゃねぇんだろうな。俺たち」